ご存知のとおり、アメリカでは国民健康保険のような制度が存在しないため、基本的に
は各自が民間の医療保険に加入する必要があります。出産に関しても、保険がなけ
れば当然全額負担ということになってしまいます(ただし、メディケアといった公的措置
の恩恵に預かれる方は除きます)。ニューヨーク基準でいくと、マンハッタンで出産を
予定する場合、大きく分けて産婦人科の先生への支払いと大学病院への支払いを
想定しておく必要があります。
保険なしの場合、概ねその金額は以下のようになると思います。
産婦人科 約60万程度
病院 約100万円程度
その他にも無痛分娩に関する麻酔費用等がかかってきますので、為替レートが115円
程度としても、余裕をもって約200万はみておく必要があるかもしれません。また、帝王
切開や予期せぬ長期入院といった事情が重なると、100万単位で費用がかかってくる
ことも無保険の場合のリスクといってよいでしょう。
以上のように、日本と比較して莫大な出産費用がかかるため、通常は、出産をカバー
する医療保険に加入することが極めて望ましいということになります。しかしながら、
何らかの事情で、日本で妊娠はしたもののどうしてもアメリカで出産しなければならな
い(あるいはしたい)という方もおられるでしょう。かかる場合は、その人が渡米されるに
あたってのステイタスに大きく依存するかと思います。企業派遣で渡米されるような方
は会社の保険でカバーされるように聞いており、このような方は概ね問題ないのかも
しれません。しかしながら、本人ないしご主人が留学をする、あるいは、新たにアメリカの
会社に就職するといった場合は、妊娠時にアメリカの保険会社が発行する保険に加入し
ていないため、自力でそのような状況をもカバーし得る民間保険を見つけるのはかなり
厳しいという事態に追い込まれます。仮に見つけても、おそらく、極めて高額な保険料を
徴収され、無保険の場合と大して支払額が変わらないということになってしまうことで
しょう。
では、かかる場合、アメリカでの出産をあきらめるしかないかというと、これはかなり微妙
な判断になるかと思います。まず、留学の場合は、必ず、留学先の大学が推薦する保険
の保険約款を熟読してください。大学によって提携する保険会社が違うので何とも言えな
いのですが、場合によっては、妊娠発覚後何ヶ月経っていても、出産までに保険契約の
始期を迎えれば、当該保険約款に従い、出産費用をカバーしてくれることがあります(本
人負担は20%くらいで済む場合もあります)。したがって、仮に帝王切開等で費用が膨れ
ても、本人負担が割合的に限定されるため相当程度リスクをヘッジすることが可能となり
ます。
ただし、かかる場合でも欠点はあって、保険料そのものがかなり割高であることは覚悟せ
ねばなりません。感覚的には年間100万程度かかる場合もあると思ってよいかと思います。
そうすると、結局かかる費用は、
200万×20%+100万=140万ということになり、結論的には帝王切開等のリスクヘッジ
効果+トータル費用に関して多少の割安感というメリットしかないということになるのかも
しれません。
しかし、振り返ると、結局、置かれた現状を前提に、自分自身でどこまで、きっちりリサーチ
をかけるがが最も重要なことだと思います。仕事(ないし留学)と出産を両立させねばなら
ないときもあるでしょうし、かかる場合は、できる限り、勤務予定の会社や留学先の大学に
問い合わせをして、何が最もリスクヘッジにつながるかを確実におさえるのが肝要かと思い
ます。そうすれば、案外途は開けるのかもしれません。